クルーソン"は、アメリカ・イリノイ州シカゴで1925年に創設された金属部品メーカーです。30年代頃までには,ギター・メーカーにペグやテールピースなどの金属パーツ全般を供給するブランドとして知られる存在でしたが、40年代後半に発売された"320VP"(通称"クルーソン・デラックス")や"501VX スーパー・チューナー"(通称"ワッフル・バック・ペグ")などのチューナー(ペグ)が高評価を得たことで、特にペグ・ブランドとしての認知度が高まります。特に、ギア・カバーがチューニング・ノブ・シャフトの軸受けを兼ねるというシンプルな構造(比較的ロー・コスト)で、高精度と高級感ある外観(当時、高級ペグ以外はオープン・バックが多い)を実現したクルーソン・デラックスは、ギブソンやフェンダーをはじめとする一流ブランドを含む多数のギター・メーカーに採用されていったことで、その地位を不動のものにしました。
代表的モデルのクルーソン・デラックスが初めて出荷されたのは46年頃のことです。最初期にはギア・カバーに文字が刻印されていましたが、50年中期頃には一旦、刻印がなくなります。そして、56年後半にはふたたび50年中期以前と同じ刻印が復活します。それは、ギア・カバーの中央に1列で「KLUSON DELUXE」(ギア・グリス注入用丸穴が"O"の文字になっている)と刻印されていることから、「シングル・ライン」「1列刻印」などの通称で呼ばれています。
次にギア・カバーに変化が見られるのが1963年後期からのこと。従来の1列刻印に変わり2列で「KLUSON」「DELUXE」と刻印され始め、以降はこのスタイルが長く続くことになります。このスタイルのクルーソン・デラックスを「ダブル・ライン」「2列刻印」などの通称で呼びます。なお、刻印の有無や表示方式の変更等はクルーソン社側の意思で実施されたものですので、実際にギター本体への採用時期はギター・メーカーのペグの在庫・仕入状況に影響を受けるため、モデルによって異なることがあります。なお、70年初頭からのギブソンでは、2列刻印スタイルのクルーソン・デラックスの特注品を使い始めます。それは、ギア・カバーに「GIBSON」「DELUXE」という2列で刻印されたものでした。
クルーソン・デラックスのチューニング・ノブは丸型(金属製またはプラスティック製)が標準仕様ですが、関係の深かったギブソン社へは40年代のうちから中~上級モデル向けに特注のプラスティック(パーロイド)製"キー・ストーン"型ノブ仕様で納入していました(中級~ロー・コスト・モデルは丸型ノブ)。その形状にも製造年式で変化が見られます。当初、キー・ストーン型ノブは根元の膨らみ(リング)がひとつで、これを外観的特徴から「シングル・リング・ノブ」「ひとコブ・ツマミ」などの通称で呼びます。そして、キー・ストーン"型ノブは60年後半にリングがふたつに変更されますが(ゴールド・メッキ仕様は除く)、こちらは「ダブル・リング・ノブ」「ふたコブ・ツマミ」などと呼ばれます。
フェンダーでも、40年代に発売していたスチール・ギターですでに使用していた流れで、世界初の量産型エレクトリック・ソリッド・ギターとして知られる"ブロードキャスター"(最初の正式モデル名は"エスクワイア"2ピックアップ仕様。のちに"テレキャスター"へモデル名変更)にクルーソン・デラックスを採用しています。しかし、フェンダーがデザインした片側に6個のペグが並んだヘッド形状にクルーソン・デラックス(分離型320VPスタイル)を取り付けるにはスペースが狭かったため、ベース・プレート部分を加工するというアイディアで対処しました。つまり、1弦用の上側と6弦用の下側を除き、隣り合うベース・プレートをネジ穴の中央の位置で横半分に削り落として取り付けスペースを確保するというものです。そして、通常の使用方法なら1個のペグあたり2本、計12本の止めネジを必要としますが、このスタイルに加工したことで計7本のネジで固定できるという合理性も生まれました。この加工はフェンダー社側によって、グラインダーを用いて手作業で行なわれたと伝えられています。また、フェンダーはスプリット・セイフティ・ストリング・ポスト(ポスト上部から弦の先端を差し込んで弦を巻き付けることで、尖った弦が露出しないスタイル)仕様を選択しています。これはクルーソン社が設計したものですので他ブランドでの使用例も見られますが、フェンダーによって広く知られるようになったペグ・スタイルと言えるでしょう。
その後、クルーソン・デラックス(2列刻印)は80年代初頭まで生産されていたようです。おそらく最後の使用例として知られるのが、81年に発売されたフェンダー"ブレット"のファースト・バージョン(テレキャスター・スタイルでローズウッド指板ネックのモデル)でしょう。しかし、生産終了(中断)時期がハッキリしないほど、その頃はクルーソン・ブランドの存在感は失われていました。70年代中期頃からは"グローヴァー"や"シャーラー"のロト・マチック・ペグなど、頑丈さや精度を誇る高機能ペグに目が向けられていたのです。
クルーソン・ブランドが注目を集めるようになったのは、80年代後期から巻き起った世界的なビンテージ・ギター・ブームの影響です。クルーソン・デラックスのシンプルな構造によるサウンド面への影響とそのルックスが見直されたわけです。こうした環境の中、90年代後期にはアメリカのギター・パーツ会社"WD"によってクルーソン・ブランドが待望の復活を果たします。そして、近年には全面的な仕様の見直しを決行。ストリング・ポストを1/4インチ(6.35㎜)に変更するなど、よりオリジナル仕様を尊重した変更がなされています。
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